最新.6-5『予期せぬ結末』


衛隊B「……隊員Dさん……」

 衛隊Bは少し青く、しかし悲しそうな顔で隊員Dの姿を見ていた。
 本来ならば隊員Dの虐殺行為を止めるべきであったが、隊員Dの友を失っているという事実。そして悲しいまでの復讐の意思を前に、衛隊Bは彼の行為を止めることも咎める事もできなかった。
 咆哮が止み、隊員Dは最早腰の下の剣狼魔女達には興味も向けずに、ただ夜闇の一点を見つめ続けている。そんな隊員Dに、衛隊Bは駆ける声も思いつかないまま、ともかく歩み寄ろうとした。

隊員O「そっとしといてやれ」

 しかし隊員Oがそれを止めた。

衛隊B「た、隊員O三曹……あの……」

 衛隊Bはそんな隊員Oに対しても、少し青ざめた顔で視線を向けた。
 今さっき、平然と傭兵の一人を施設作業車に命じて潰して見せた隊員Oもまた、衛隊Bからすれば接し方に困る存在であった。

隊員O「こいつ等が徹底して気っ色悪い奴等だってことは、重々理解できた」

 そんな衛隊Bの思いを知ってか知らずか、隊員Oはそれ以上衛隊Bと会話を交わそうとはせず、周辺に転がる多数の傭兵達を冷たい目で見下ろす。

剣魔P「クソ、なんてことだ……」

剣魔Q「剣狼魔女さんや剣狼艶女さんがぁ……!」

 傭兵達は皆、悲観に満ちた顔で、嘆きの声を上げている。

剣狼少年「ぁぅぅ……剣狼魔女ぃ……」

その中には、涙を流す剣狼少年の姿もあった。

剣魔R「隊長がいてくれれば……」

 しかし傭兵の一人が口にした言葉に、傭兵達はハッとなった。

剣魔P「そうだ、僕等には隊長がいる!」

剣魔Q「そうだ、あきらめるな!剣狼隊長隊長がきっと来てくれる!」

 そして傭兵達は再び活気に満ち、次々に声を上げ始めた。

剣魔P「どうせ貴様らは、隊長の刃に倒れる!そしてその強大さと麗わしさを目の当りにし、歯向かう事がいかに愚かな事だったかを思い知り、後悔するだろう」

剣魔Q「そうだ!これまでの敵は皆そうだった。俺達のように真実に気づいた者は皆様の虜としていただけたが、愚か者は無残に屠られる!」

剣魔R「強く美しい方に従属する喜びを知らぬ、哀れな奴め。奴には、我が主による鉄槌が下るであろう……!」

剣艶E「そうだ、我々が隊長達に使え、鞭を頂くことこそ、最高の褒美!それを分からぬ愚か者共めッ!」

隊員O「………」

 喚き散らす傭兵達に、隊員Oは最早悪態を吐くことすら億劫に感じながら、転がる傭兵の一人に向けて小銃を構え、その引き金に指を掛ける。
しかしその時、隊員Oは自身の真横の気配に気が付き、視線をそちらに向けた。

隊員L「やめろ隊員O……!」

 横を向くと、そこには隊員Lの姿があった。慌てて駆け付けたのか少し息が上がっている。
 しかし今問題な部分はもっと別にあった。
 その手には彼の護身用の9mm拳銃が構えられ、その銃口は他でもない隊員Oに向けられていた。

隊員TeA「な!?た、隊員L三曹!」

近くにいた隊員Oの組の隊員が、その光景に驚き声を上げる。

隊員O「いい、下がってろ」

しかし当の隊員Oは変わらぬ口調で隊員にそう言うと、隊員Lの顔に視線を向ける。

隊員O「で、どうした?お前まで洗脳を食らったか」

 言いながらも隊員Oは、隊員Lが洗脳などを受けたわけではない事は見た時点で察していた。
 隊員Lのその目は、確固たる自身の意思により、隊員Oを睨み、その手の拳銃を向けている。

隊員L「違う!俺は……自覚してる限りは正気だ!」

隊員O「ふん、じゃあアレか?また敵にも慈悲を云々か?この気色悪い連中は、観測壕の連中をヘラヘラ笑いながら甚振り殺したんだぞ?

隊員L「許せるわけはない。俺だって反吐が出そうだ……だが、虐殺が正当化されるわけじゃない……!お前の行為は度が過ぎている!」

隊員Lはその手の9mm拳銃を突き付け直しながら、隊員Oに向けてそう訴えた。

隊員O「こいつ等は抵抗の意思がある。無力化しておくべきだ」

隊員L「なら拘束しておけばいいだけだ!お前は……施設C一士を殺された恨みを、コイツ等にぶつけて晴らそうとしてるんじゃないか!?」

隊員O「あぁ……そうかもな」

隊員L「――ッ!」

 隊員Oの口から発せられた思いもよらぬ肯定の言葉に、隊員Lは目を剥いた。

隊員O「俺からすれば正直、こいつ等も、停戦を飲んだ連中も変わらねぇ。皆、殺してやりたいくらいだ。お前はまだ、近しい人間を殺された事がないから、分からないだろうがなぁ?」

 先の親狼隊との戦闘で死亡した施設C一士は、隊員Oが教育隊の班長を務めていた際の班員だった。
 停戦によりその仇討が不完全に終わってしまった隊員Oにとって、そこへ遭遇した、隊員をその手にかけた剣狼隊傭兵達の存在は、それを少しでも完遂に近づける絶好の獲物であった。

隊員L「ッ……」

隊員O「どうした、それが許せないなら撃ったらどうだ?」

 拳銃のグリップを握る隊員Lの手に、汗がにじむ。
 額からは一筋の汗が伝い落ちる。
 そして彼は、見せつけるように傭兵に銃を向けている隊員Oに向けた拳銃の、引き金にかかる指にゆっくりと力を込める。

隊員C「ぬぉぃ、お三曹どもがたぁ!」

 一触即発状態の二人へ、唐突に声が掛かった。
 二人が振り向くと、そこにあったの隊員Cと支援Aの姿だった。

隊員C「なーにを面倒臭ぇこと、やらかしてるんでござんしょッ?」

支援A「クールダウンしようぜぇ、ミスタァーズ」

 隊員Cが皮肉120%の顔で両者の顔を睨み、支援Aはその巨体で両者の間に割り込み、二人を強引、かつダイナミックに遠ざけさせる。
 隊員Cと支援Aの場の空気を読みもしない仲裁は、隊員Lと隊員Oの間の緊迫した空気を掻き乱した。

隊員O「はッ、やれやれ」

強引な仲裁に毒気を抜かれた隊員Oは、そんな声を発する。

隊員L「お前等……何をその手に持っているんだ……」

 一方の隊員Lは、隊員Cの支援Aがそれぞれ両腕に持っている物を目に留め、驚愕とも呆れともつかない声を上げた。
 隊員Cの右腕と左腕には、それぞれ首を締め上げらている女傭兵の体があった。どちらもすでに首の骨を折られて絶命している。
 そして支援Aは両手にそれぞれ、女傭兵の死体を足首を掴んで逆さ釣りにして持っている。いずれもすでに亡骸と化していた女傭兵達のその様子は、まるで絞められた鶏のようだった。

隊員C「えぇ、道中でなんぞ気持ち悪く絡んで来たもんでねぇ!」

支援A「悪い事しちゃ、メッってしたわけだぁ。あー――です」

皮肉気にいう隊員Cと、軽快に発した後に怪しく敬語を付け加える支援A。

隊員L「お前等……」

隊員Lは言葉を発しかけたが、それ以上発する言葉が見つからなかったのか、そのまま絶句した。

自衛「こりゃ、愉快な事になってるな」

同僚「……こっちも酷い……」

さらにそこへ、自衛と同僚が現れる。

隊員O「自衛、同僚」

自衛「先行班、任務を完了して戻りました。そっちに合流します」

 気付いた隊員Lや隊員Oに向けて、淡々と言ってのける自衛。

自衛「あぁ、それと。無線でも言いましたが、脅威存在は無力化しました」

 言いながら自衛は、片方の腕にぶら下げ持っていた物体を少し持ち上げて見せる。

隊員L「な……!」

隊員O「マジか」

 それは脅威存在であり、剣狼隊隊長である剣狼隊長の、無残な死体だった。

隊員O「そっちのガキは?」

 隊員Oは自衛のもう片方の手からぶら下がる死体に気付く。

自衛「あぁ、よくは知りませんが、この脅威存在の女の取り巻きのようです。どうにも、こいつもヤベェ能力を持ってたようですが、はっ倒したら無力化できました」

隊員O「滅茶苦茶だな」

 隊員Oは再び呆れた声を零した。

剣魔P「え……あ、あああああッ!?」

 その時、どこからか絶叫が上がった。それは地面に横たわる傭兵の内の誰かの物であった。自衛のその手にぶら下がる死体が、剣狼隊長の物だと気が付いたのだ。

剣魔Q「う、嘘だぁ!そんなぁ!」

剣魔S「い。いやぁぁぁッ!」

剣魔R「く、剣狼隊長さまぁぁぁ!」

 そして傭兵達は次々のその事に気が付き、絶叫は伝播してゆく。
 彼等にとって剣狼隊長の存在は絶対の物であった。そんな剣狼隊長の無惨な死体を目の前に突き付けられた事は、彼らを絶望に追いやり絶叫を上げさせるには十分過ぎる要因であった。

剣魔P「く、うぁぁぁぁッ!」

 そしてそんな中、一人の傭兵が剣を拾い、叫び声と共に満身創痍の体を無理やりに起

剣魔P「ぎゃッ!」

 しかし直後に、発砲音と傭兵の悲鳴が響いた。

隊員O「抵抗の意思、有りだ」

 隊員Oからそんな言葉が発せられる。彼の持つ小銃からは硝煙が上がっていた。

剣魔Q「クソォォォッ!」

剣魔S「うわぁぁぁッ!」

 最早自棄のそれである抵抗行為は、生き残りの剣狼隊傭兵達全員に伝播した。傭兵達は次々とその傷だらけの体に鞭を打ち、近くの隊員に襲い掛かろうとする抵抗を試みる。
 しかしそんな彼らの末路は目に見えていた。
 隊員Oは、動きを見せた傭兵達を、行動に移られる前に小銃で的確に撃ち抜いてゆく。
 異常事態を認め、警戒をしていた各組の隊員も各々対応し、動きを見せた傭兵に向けて発砲。傭兵達は抵抗虚しく、各所で無力化されてゆく。

隊員O「デリック1、ガントラックからは撃つな。こちらだけで対応する」

輸送D《了解》

 混戦になる中、しかし隊員Oは冷静かつ的確に指示を飛ばし、なおかつ自身も傭兵達を撃ち抜いてゆく。

隊員L「よせ、もう抵抗するな!こんな事は――!」

 一方の隊員Lは傭兵達に向けて、抵抗をやめるよう訴えかけている。しかし――

剣魔R「うぁぁッ!」

 そこへ、隊員Lにも剣を持って飛び出してきた傭兵が襲い掛かって来た。

隊員L「ッ――!」

 隊員Lは反射的に拳銃を傭兵に向け、そして発砲した。

剣魔R「ぎょッ」

 打ち出された9mm弾は傭兵の額に命中し、傭兵はもんどりうって地面に崩れた。

隊員L「………ッ!」


 傭兵達の捨て身の抵抗は、一分にも満たない間に鎮圧された。

剣艶E「我々が……いただくことこそ……あびゃッ!?」

 瀕死の状態で、まだ言っていた傭兵がいたが、隊員Oはその傭兵の後頭部に小銃を押し付け、発砲して止めを刺した。

隊員O「21観測壕の面子は、こんなくだらない奴等のために犠牲になったのか。浮かばれねぇな」

 傭兵の死体を踏みつけながら小銃を降ろし、不快そうに吐き捨てる隊員O。周囲から、同様に止めを刺す発砲音が、一発、二発分と響き聞こえてくる。
 そしてその音を境に、動く傭兵の姿は一人も無くなった。
 それは、これまで華々しい活躍をしてきた剣狼隊が、今、その歴史に幕を閉じた事を意味していた。
 猟犬を名乗る飼い犬達の、凄惨で哀れな最期であった。

隊員L「………」

 隊員Lは目を剥き、倒れた傭兵の姿を見つめている。

隊員O「な?撃つべきだっただろ」

 隊員Oはそんな隊員Lに近寄ると、皮肉気に一言発し、隊員Lの元から離れて次の行動に移って行った。

隊員L「………Чёрт возьми(悪魔め)……!」



 自衛等も各々降りかかる火の粉を払い、事なきを得ていた。

自衛「やぁれやれ」

 自衛は呟きながら、血で汚れた自分の手を払っている。

同僚「ッ!こんなことって……」

 その隣では立膝姿勢の同僚が、構えていた小銃を降ろしながら困惑の声を漏らしている。自衛等の足元には、自衛にはっ倒された傭兵や、銃撃の犠牲になった傭兵の亡骸が転がっていた。

自衛「土産でホッとさせようとおもったんだが、ウケが悪かったみてぇだな」

 自衛は足元の傭兵の死体を脚でよけながら、冗談とも本心ともつかない台詞を、淡々とした口調で言ってのける。

同僚「お前……!」

 それに対して、苦言を呈そうとする同僚。

隊員O「鋨壽士長」

 しかしそれは、近寄って来た隊員Oの声に阻まれた。

隊員O「どうしてわざわざ死体を持ってきたんだ?」

 そして自衛に向けて尋ねる隊員O。

自衛「停戦なら亡骸の引き渡しとかがあると思ったんで。少し間が悪かったようですが」

 対する自衛は、悪びれる様子すらなくそう言ってのける。

隊員O「ったく、まぁいい。お前等はアイツについててやれ。お前んトコの班員だろ?」

 隊員Oは唐児の姿を指し示すと、その場から歩き去って行った。



隊員C「あー、隊員D大先生。ケツん下のそいつは新作ですかぁ?」

 隊員Cは両腕に抱えていた女傭兵達の死体を投げ捨てると、隊員Dに近寄り、彼の腰の下にある剣狼魔女達の死体に言及する。

隊員D「こいつがもう一人の脅威存在だ」

 皮肉と悪趣味な冗談交じりの隊員Cの問いかけに、対する隊員Dは淡々と答える。

同僚「隊員D、いくらなんでも……ッ!」

 その光景に、同僚が咎める声を発しかける。

隊員D「こいつが誉や鈴暮を甚振った張本人です」

 言葉こそ静かだが、鋭い眼光で同僚を見つめ返して発する隊員D。

同僚「しかし………」

 その気迫に、同僚は次に紡ぐ言葉を失った。

隊員C「で、よぉ。もいっちょ気になってたんだが、んだよコイツは?」

 一方、隊員Cは近くに転がる一人の傭兵の死体を指し示す。
 剣狼少年だ。
 混乱の最中、流れ弾に当たって死んだようだ。
 魔女の哀れな飼い犬であった少年は、主である魔女のその凄惨な最期を見せつけられた挙句に、屍となって転がったのだった。

隊員C「なーして真っ裸で首輪なんかつけてんだ、気持ち悪ッ」

 隊員Cは首輪のつけられた少年の体を気色悪がる。

隊員B「そいつは、脅威存在のガキの奴隷らしいよ」

隊員C「隊員B」

 そこへ掛けられた言葉に隊員Cが振り向く。説明の台詞を挟んで来たのは隊員Bだ。

衛隊B「隊員Bさん、まだ安静にしてないと……ッ」

隊員B「もう大丈夫だって衛隊B」

 寄り添う衛隊Bに返しながら、隊員Bは自衛等の元まで歩いて来る。

同僚「奴隷って、じゃあ保護すべきだったんじゃ……!」

 同僚は険しい顔を作って発する。

隊員B「いや、その必要はないでしょう。その魔女のガキに甚振られても、碌に抵抗せずにアウアウ言うだけ。かと思いきや、いざ戦闘になったら『僕が護るんだ~』とか、女を護る騎士気取りでした。つまりそういう気持ち悪い関係だったんでしょうよ、骨抜きにされた飼い犬だ」

 隊員Bは洗脳状態にあった中でも、起こった出来事を断片的に覚えていたようで、そのことを説明して見せた。

自衛「この坊主と同じパターンか。そいつぁ、かわいそうだが、手を差し伸べるこたぁできねぇな」

同僚「……」

隊員C「お前、いつまでそれ摘まんでんだよ」

シレっと言ってのける自衛に、同僚は最早返す言葉も浮かばない様子で、代わりに隊員Cが未だに自衛の手からぶら下がっている剣狼側近の死体について言及した。

隊員B「他の黒タイツ共もそうでした。こいつらは、女がイキってて、男がいいようにされてるSM集団なんですよ。危うく俺も操られて、その仲間にされちまう所だった……」
 少し顔を青くしながら、隊員Bは見聞きした剣狼隊の実態を説明する。

隊員C「ヴォッエ……ッ!」

支援A「ゲロゲロだずぇ」

それを聞いた隊員Cと支援Aが、真似事か本気か嘔吐を催したような声を発して見せた。

隊員B「……ちなみに、隊員Dが今座ってる脅威存在のガキは、聞く限り700歳を超える魔女だそうです。ホントがどうかは知りませんけど。俺にはヒステリックなガキにしか見えませんでしたが」

自衛「ほーう。勇者女の次は、ビックリ長寿女か。ビックリ人間コレクションが作れそうだな」

 本気にしてるのか不明な、淡々とした口調で言ってのける自衛。

隊員C「こんなんばっかだなッ!不快でしかない要素の塊のくせに、この手の奴に釣られて、ヘラヘラ付き従う低能が後を絶たねぇッ!」

衛隊B「民間保安軍の待遇に釣られる市民の問題みたい……」

 隊員Cの罵倒文句に、よく分からない例えを挟む衛隊B。

自衛「とにかく、こいつ等がとんでもなくキモイ連中だってこたぁよく分かった」

隊員C「お前ぇの顔面のキモさに届くくれぇにな……ッ!」

 自衛は隊員Cの嫌味は無視して、汚物に塗れた剣狼魔女と剣狼少年の死体を見下ろす。

同僚「どこもかしこも、どうかしてる……」

隊員C「今に始まったことかよ」

 同僚の悲痛な言葉に、隊員Cが水筒の水で口をゆすぐ片手間に、皮肉の言葉を飛ばした。



 隊員C等が気分の良いとは言えない会話を繰り広げている間も、隊員Dは殺気止まぬ顔で一点を見つめていた。
 誉達の命を奪った下手人である剣狼隊長達は、自衛により仕留められ、誉と鈴暮を嘲り甚振った剣狼魔女達は、今、隊員Dの手によって屠ら無残な姿となった。
 ここに報復は全て成し遂げられた。
 しかし、それで友である誉や鈴暮が生き返る訳ではない。
 今の隊員Dは大きな喪失感に襲われていた。
 そんな隊員Dの前に、自衛が立った。

自衛「隊員D、色々思うトコはあるだろうし、この後、特に俺等はアレコレと面倒なことを聞かれるだろう。まだ終わりじゃねぇ、色々とな。だから、今はとりあえず下がって休め。んな趣味の悪ぃ椅子じゃねぇ所でな」

 隊員Dの腰の下で人間椅子と成り果てた女達を指し示しながら、隊員Dを説く自衛。

隊員D「………了解です」

 その言葉に隊員Dはようやく女達の背から腰を上げた。



 ヘッドライトを煌々と照らす旧型小型トラックが一両、そしてその斜め後ろを追走していた二騎の騎兵が、その場に走り込んで来た。小型トラックは施設作業車の近くに停車し、その助手席から補給二曹が。二騎の馬からは衛狼隊の隊長衛狼隊長と、側近の衛狼側近がそれぞれ降りて駆け寄って来る。
 駆け寄って来た補給は、周囲の状況を見て愕然とした。

補給「ッ……また、やってくれたなお前等は……」

 そして機関けん銃を握ったままの手の甲を、額に当てて苦々しく吐く補給。
 そんな補給に、隊員Oが近づいて報告の言葉を発した。

隊員O「補給二曹、確認された脅威存在は全て無力化されました。それに追従していた小隊規模の敵部隊も、全て処理完了です」

 苦々しい顔の補給とは対照的に、隊員Oは涼しい顔でつらつらと報告の言葉を並べてみせる。

補給「隊員O三曹……」

隊員O「あぁ。状況を説明するには長くなりますが、この場に関しては半数は隊員Dが、半数は今、俺等がやりました。抵抗を受けましたので」

 補給の言いたいことを察してか、隊員Oはそんな言葉を付け加える。

補給「………」

 補給は周辺に散らばる死体を、そして隊員Dとその腰の下に並ぶ死体を目にして、渋い表情を作る。

隊員N「補給二曹。現状維持は不可能でしたし、私達前進観測班は危険な状態にありました。隊員D一士と、隊員O三曹等の増援が来てくれなければ、私は拷問の末に殺されていたかもしれなかった」

 近くで手当てを受けていた隊員Nが、補給の元へフォローの言葉を発する。

補給「危機的な状況であった事は理解はしてるつもりだ……それに、どうにも彼女らは停戦の報を知りながら、襲撃に踏み切ったらしい……だが、それにしてもこれは……」

衛狼隊長「これは……」

衛狼側近「………ッ!」

 補給の隣では、衛狼隊長衛狼隊長と、側近の衛狼側近が言葉を失っていた。

補給「衛狼隊長さん……申し訳ない」

衛狼隊長「いや……停戦の報を無視したのは剣狼隊だ……」

 補給の謝罪に対して、どうにか言葉を紡ぐ衛狼隊長。しかしその表情には割り切れない感情が滲み出ていた。

隊員O「よぉ、アンタ」

 次に返す言葉を見つけられずにいた補給に代わり、横から隊員Oが口を挟んだ。

隊員O「余計なおせっかいかもしれないが、あんた方の雇い主は禄でもない事を企んでるようだ。
手を引くことを進めるね」

 横に居た隊員Oがそんな言葉を挟む。

隊員O「それと、とっととここから引くことだな。俺は正直、アンタ等もぶっ殺してやりたいくらいなんだ」

補給「隊員Oォッ!!」

 補給が怒声を飛ばすが、隊員Oの表情は冷たく、そして憎らし気なままだ。

補給「衛狼隊長さん……そちらの負傷者の引き渡しは、予定道理行います」

衛狼隊長「あぁ……すまない……」

 両者は約束された引き渡しの日時、手順を再度確認する。
 そして衛狼隊長と衛狼側近は愛馬に跨ると、回頭させ、その場から去って行った。それを見送った後に、補給は周囲の隊員等に向けて声を張り上げた。

補給「作戦は終了――撤収だ!!」



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